Fat Tuesday Air Line
Gospel Music
Handel's Messiah
/A Soulful Celebration
1992年は、私にとって、まさに黒い文化元年だった。
私に向かってブラックなものが、怒涛のごとく飛び込んできた。
今思えばこの年が、今の私のフェイバリットをすべて作っているような気がする。
2月にゴスペルに出会い、9月に初めてのニューヨーク一人旅。もちろんそこでハーレムにも
初めて足を踏み入れた。そして、帰国後、ちょうど9月か10月あたりに発売されたのがこのアルバムだ。
その名も「ヘンデルのメサイア〜ソウルフル・セレブレーション クインシー・ジョンズ・スーパー・プロジェクト」。
クラシックのヘンデルのメサイアを、御大クインシー・ジョーンズがゴスペル調にアレンジし、
彼の人脈をフル活用してあつめたブラックミュージック界のドリームチームでレコーディングしたという、
とんでもないアルバム。あまりの内容の濃さに、数年前、再リリースされたほどだ。

集まったメンバーは、ゴスペルシンガーのバネッサ・ベル・アームストロング、ジャズシンガーの
ダイアン・リーブス、パティ・オースティン、スティービー・ワンダー、テイク6、サウンド・オブ・ブラックネス、ボーイズ・
クワイア・オブ・ハーレム、リチャード・スモールウッド・シンガーズ、アル・ジャロウ、テヴィン・キャンベル、チャカ・カーン、Commissioned、クラークシスターズ、フレッド・ハモンド、ダリル・コーリー、アンドレ・クロウチ、Edwin Hawkins、
Tramaine Hawkins、ヴァネッサ・ウイリアムスなどなど、書き出したらきりがないほど。
料理でいうなら、世界各国から集めてきた、おいしく熟した貴重な食材を、
凄腕料理人であるクインシー・ジョーンズが、元テイク6のマーヴィン・ウォーレンという若手シェフを使って、
アフリカ風、R&B風、時にカリビアンやHIP HOPもスパイスに、多彩な料理を作ってみせて、
最後の最後にメインディッシュである「Hallelujah!」を、本人自ら運んできたという感じの、
ゴージャスで肉汁したたるジューシーなアルバムなのだ。

4曲目の「And The Glory Of the Lord」ではスティービー・ワンダーとテイク6のコーラスが聴けるし、
繊細で張り詰めたコーラスがどんどん高みに増していく高揚感がたまらない、Ramaine Hawkinsが
リードボーカルを取った「And He Shall Purify」、ボーイズ・クワイア・オブ・ハーレムの歌声とHIP HOPが
絶妙に絡み合う「Glory To God」、アフリカンドラムとサウンド・オブ・ブラックネスの壮大な歌声がミュージカルの
ようなムードをかもしだす「For Unto Us A Child Is Born」、フレッド・ハモンドとクラークシスターズのお宝競演
「Lift Up Your Heads O Ye Gates」、ベースがうねる、ピアノがはねるビッグバンドをバッグにアル・ジャロウが
ボイス・パーカッションのような歌声で、これでもかと歌い上げる「Why Do The Nations So Furiously Rage?」、
そして最後に、ドリームチーム総出演で歌い上げた「Hallelujah!」と、
どれを食べてもおいしくて、ほんとに最高。
特に「Hallelujah!」は、いつ聴いても新鮮で、頭のピアノの部分で有無を言わさず体が自然に踊ってしまうほどだ!

それに、黒人シンガーばかりあつめているということは、
黒人の素晴らしさを世に放つべく、啓蒙活動も兼ねているはずで、
やっぱり1曲目の「OverTure:A Partial History Of Black music」には、アフリカンリズムからニグロ・スピリチュアル、
ジャズ、ビッグバンド、ゴスペル、ブルース、ハウスまでブラックミュージックの歴史をまとめた曲がある。
奴隷としてつれてこられた黒人達は、20世紀におけるアメリカ芸術の最高峰であるジャズを生み出した。
ラップやHIP HOPの世界は黒人達のものだといえよう(「8マイル」でも白人であるエミネムが悩んでいたではないか、
黒人のものであるラップを、白人である自分が、彼らの前でやって見せることが恐ろしいと)。
そういう視点からこの1枚を眺めてみると、よりいっそうブラックミュージックの多様な顔を見えてきて、ますます
味わいが深くなるのだ。

これも季節をとわず聞きまくる、私が永遠に愛を誓った1枚です。
クインシー料理長、
とってもおいしゅうございました。
そして、これからも、おいしくいただきます。